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訪問介護 市場の動向と展望|データと事例で読み解く、事業者が打つべき次の一手

  • 執筆者の写真: ラフロックス株式会社
    ラフロックス株式会社
  • 2 日前
  • 読了時間: 7分

超高齢社会の日本において、在宅生活の根幹を支える訪問介護。その市場は今、社会保障制度の大きな転換点と、前例のない人手不足という二重の荒波の中にいます。特に2024年度の介護報酬改定は、多くの事業者に衝撃を与え、市場の淘汰と二極化を加速させています。

本記事では、表面的な動向解説に留まらず、公的データや具体的な事例を基に市場の「今」を深掘りします。そして、2025年、さらにその先の2040年を見据え、訪問介護事業者がこの変革の時代をいかにして勝ち抜くべきか、具体的な戦略を提言します。


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1:データで見る訪問介護市場のリアル


まず、訪問介護を取り巻く客観的な数値を多角的に分析し、市場環境の厳しさと、その中に潜む機会を明らかにします。


厳しい経営環境を示す各種データ


  • 市場規模(介護費用額): 訪問介護を含む在宅サービスの費用額は、2022年度で5.4兆円に達し、増加傾向にあります。高齢者人口の増加に伴い、在宅介護への潜在的ニーズは今後も確実に拡大します。しかし、この「需要」が事業所の「収益」に直結しないのが現在の市場構造の難しさです。

  • 事業所数と利用者数のアンバランス: 訪問介護の事業所数は約35,000箇所で高止まりしている一方、1事業所あたりの利用者数は伸び悩んでいます。これは、担い手であるヘルパーの不足により、依頼を断らざるを得ない「サービス提供控え」が深刻化していることを示唆しています。

  • 有効求人倍率15.53倍の衝撃: 介護分野全体の有効求人倍率は約4倍ですが、訪問介護員(ホームヘルパー)に限ると15.53倍(2023年時点)という異常値を示します。これは、1人の求職者に対して15社以上が採用を競い合っている状況であり、人材獲得の困難さを物語っています。

  • 倒産・休廃業の急増: 東京商工リサーチによると、2023年の「老人福祉・介護事業」の倒産は過去最多を記録。特に訪問介護は、報酬改定の議論が本格化した2023年後半から急増しており、2024年はさらに厳しい状況が予測されます。


【深掘り】2024年度介護報酬改定が与えるインパクト


今回の改定で、訪問介護は基本報酬が2.5%引き下げられました。これは、他のサービスが軒並みプラス改定となる中での異例の措置であり、特に利益率の低い小規模事業所の経営を直撃しています。

国はこの引き下げの補填として、特定事業所加算ベースアップ等支援加算といった各種加算の取得を促していますが、算定要件が複雑であったり、そもそも賃金改善の原資が乏しかったりと、多くの事業所が活用しきれていないのが実情です。

この改定が示すメッセージは明確です。「質の低いサービスや、旧態依然とした経営の事業所は淘汰される」。今、訪問介護事業者は、サービスの質と経営体制の両面で変革を迫られています。




2:【最新動向】現場で進む3つの変革サバイバル戦略


厳しい市場だからこそ、先進的な事業者は次の一手を打ち始めています。ここでは、今後の事業継続の鍵となる3つの変革の動きを、具体的な事例と共に解説します。


1. DX(デジタルトランスフォーメーション):"脱・紙と電話"が経営を救う


もはや単なる業務効率化ツールではありません。DXは、人材定着とサービス品質向上のための必須戦略です。

  • 記録・報告・情報共有の完全ペーパーレス化:

    • 事例: ある首都圏の事業所では、介護記録ソフト「カイポケ」を導入。ヘルパーはスマホ一つで記録から報告までを完結できるようになり、事業所に戻るための移動時間や残業が月平均10時間以上削減。削減したコストを処遇改善に充て、離職率の大幅な低下に成功しました。

  • AIによる訪問スケジュール最適化:

    • 事例: AIケアプラン作成支援サービス「Care-wing」などを活用し、ヘルパーの移動距離や時間を最小化。これにより、1日に訪問できる件数が増加し、売上向上とヘルパーの負担軽減を両立させています。

  • 科学的介護「LIFE」への対応:

    • 利用者の状態やケア内容をデータとして国に提出し、フィードバックを得る「LIFE」。これに対応することで科学的介護推進体制加算などが算定可能になります。データに基づいたケアプラン(PDCAサイクル)の実践は、サービスの質を客観的に証明し、利用者やケアマネジャーからの信頼獲得に直結します。


2. 人材戦略の高度化:"誰でもいい"から"選ばれる職場"へ


採用難の時代だからこそ、採用手法と定着支援のアップデートが不可欠です。

  • 処遇改善の徹底と魅力ある職場づくり:

    • 戦略: 処遇改善関連の3つの加算を完全取得するのは最低条件。それに加え、資格取得支援制度の拡充(費用全額補助など)、メンター制度の導入による精神的サポート、柔軟な勤務体系(短時間正社員、ダブルワーク許容)などを組み合わせ、働きがいと働きやすさを両立させます。

  • 「混合介護」による収益源の多様化とヘルパーへの還元:

    • 事例: ある地方の事業所では、介護保険サービスの合間に、自費の家事代行や通院介助、ペットの世話といった「保険外サービス」を提供。これにより新たな収益源を確保し、その利益の一部をヘルパーにインセンティブとして支給。ヘルパーのモチベーション向上と収入アップを実現しています。

  • 新たな採用チャネルの開拓:

    • ハローワークや求人広告に頼るだけでなく、職員からの紹介(リファラル採用)制度の強化や、一度退職した職員に再入社を促すアルムナイ制度の構築が有効です。また、地域住民との交流会などを通じて、潜在的な介護人材との接点を作る地道な活動も重要です。


3. 医療連携と専門性強化による高付加価値化


これからの訪問介護は、"お世話"から"医療ニーズにも応える専門職"への進化が求められます。

  • 訪問看護ステーションとの強力なタッグ:

    • 戦略: 近隣の訪問看護ステーションと定期的な合同研修やカンファレンスを実施。喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアが必要な利用者への対応力を高めることで、医療依存度の高い利用者を積極的に受け入れられる体制を構築します。これは、他の事業所との明確な差別化に繋がります。

  • 「看取り」「認知症」など特定分野への特化:

    • 在宅での看取りニーズは年々高まっています。「看取り介護加算」の取得はもちろん、グリーフケアまで含めた質の高いサービスを提供できる体制を整えることで、「〇〇(地域名)の看取りなら、あの事業所」というブランドを確立できます。認知症ケア専門士など、専門資格を持つ職員を育成することも有効です。




3:【未来展望】2040年を見据えた訪問介護の進むべき道


団塊ジュニア世代が65歳以上となる2040年に向け、社会保障制度は持続可能性を問われ続けます。訪問介護は、地域包括ケアシステムの中で、より中心的かつ専門的な役割を担うことが期待されています。

キーワードは「アウトカム(成果)評価」です。単に「何時間訪問したか」ではなく、「利用者のADL(日常生活動作)がどう維持・改善したか」「QOL(生活の質)がどう向上したか」といった成果が問われる時代になります。

そのためには、以下の視点が不可欠です。

  1. 自立支援・重度化防止のプロフェッショナルへ: 利用者の「できないこと」を手伝うだけでなく、「できること」を維持・拡大するためのアセスメント能力と支援技術が必須となります。

  2. 多職種連携のハブとなるコミュニケーション能力: 利用者の情報を医師、看護師、ケアマネジャー、リハビリ専門職などと円滑に共有し、チームとして最適なケアを構築する能力が求められます。ICTツールを駆使した情報連携がその鍵を握ります。

  3. 利用者・家族へのエンパワーメント: 利用者自身が自分のケアに参加し、家族も介護に前向きに関われるよう支援する視点も重要になります。


結論:淘汰の時代を勝ち抜くための経営戦略


訪問介護市場は、間違いなく淘汰の時代に突入しました。しかし、それは裏を返せば、質の高いサービスと強い経営基盤を持つ事業所にとっては、シェアを拡大する好機でもあります。

今、経営者が着手すべきは、自社の現状を冷静に分析し、未来に向けた明確なビジョンを描くことです。

  • 収益構造の再点検: 各種加算の取得状況は適切か?保険外サービスで新たな収益の柱を立てられないか?

  • 人材への投資: 職員の成長が事業所の成長に直結する。教育・研修制度と処遇改善に本気で取り組んでいるか?

  • デジタルへの投資: 目先のコストを恐れず、長期的な視点でDXを推進できているか?

  • 自社の「強み」の明確化: 地域で「選ばれる事業所」になるための、独自の価値は何か?

変化を恐れず、常に学び、挑戦し続ける。その先にこそ、訪問介護事業の持続可能な未来が拓けるはずです。

 
 
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